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連載

皇室の風 64

変貌する天皇喪儀
岩井 克己

2013年12月号


新宿御苑で営まれた昭和天皇の大喪の時は、会場を囲う幔幕の外周にいて幕の隙間から儀式の様子を時折のぞいていた。氷雨が降り、とにかく寒かった。

 一万人にのぼった参列者席の最前列に居並ぶボードワン白国王、ブッシュ米大統領、ミッテラン仏大統領ら各国元首らは鼻を真っ赤にし、南国トンガのトゥポー四世国王は今にも倒れそうに寒さに震えていた。報道ブースに、フィリピン人女性記者が「妊娠中なの」と真っ青な顔で逃げ込んできた。

 天皇の棺を運ぶ巨大なみこし「葱華輦」は見えなかった。ざくざくと担ぎ手たちが砂利を踏む異様な足音だけが蒸気機関車のように聞こえた。静かに歩を進めてくると思っていたので驚いた。

 あまりの重さに五十人の屈強な皇宮護衛官らも事前の練習で何度もバランスを崩して倒れ、小刻みに足取りを合わせる訓練をしてようやく担いだと後で聞いた。腐敗する遺体を閉じ込めるため、厚さ九センチの木製ひつぎを三重の入れ子状態にするため重さ五百キロ。葱華輦と合わせて一・五トンもあるという。「天皇の遺骸はどうなっているのだろうか」「これが殯と・・・