エジプト五千年の歴史上初めて公正な選挙で選ばれた大統領を軍部は昨年七月、クーデターで失脚させた。そして、正当な手続きで制定されていたはずの革命後の憲法も改正されることとなり、その新憲法案の是非を問う国民投票が一月十五、十六日の二日間にわたって行われた。結果は誰もが予想したとおり、九八％を超える圧倒的多数の賛成。懸念された投票率も三八％に上り、エジプト旧体制が目論む、シシ国防相を新大統領とする安定政権への「ロードマップ」は着実に前進している。 　この動きを捉えて邦字紙の中には「民主主義の抑圧に警鐘を鳴らす」「腐敗政治の再来だ」といった論調が見られるが、それは木を見て森を見ない議論と言わざるを得ない。 　イスラエルのプロパガンダに乗るつもりはないが、中東、とりわけアラブ世界において、歴史上公正な選挙で政権が選ばれたことなど、一度もない、というのは紛れもない事実である。つまり、アラブの辞書に「選挙」とか、「民主的な政権交代」という言葉は存在しないのであって、公正な普通選挙をすれば公正な政府と民主的な政治が実現するなどということを言う人がいるとすれば、その人は日本人であれ、エ・・・