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WORLD

イラクは「年内分裂」へ

クルド独立の「環境」は整った

2014年4月号

 三月六日、その象徴的な「事件」は起きた。ベイルート空港を六分遅れで離陸し、バグダッドに向かっていた中東航空機(レバノン)は、機体が巡航高度に差し掛かろうとしていたその時、「イラク運輸相の息子を乗せてこない限り着陸を許可しない」旨の連絡をバグダッド空港当局から受け、ベイルートに引き返さざるを得なくなった。同機に乗り遅れたイラクのアミリ運輸相の息子が、自身の不注意を省みず激怒し、イラク運輸当局に手を回したからである。

 このニュースはたちまちにして世界を駆け巡り、「マリキ政権の腐敗と後進性の極み」を象徴する事件として嘲笑の的となった。また重要なことに、アミリ運輸相はシーア派民兵組織「バドル軍」の領袖である。つまり、マリキ首相は非常にイランに近いアミリ運輸相を取り込んで自己の権力基盤を固めているのだが、日頃から非難の絶えないこの人物の息子のアウトローぶりまでもが、腐敗した政権の実態を映す鏡として国内外に知れ渡ったのである。首相は激怒して、「空港官憲を罷免した」とされているが、もちろん、肝心の運輸相とその息子にお咎めがあったという話は出てこない。
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