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連載

皇室の風 68

英国王の刺青
岩井 克己

2014年4月号

真崎甚三郎陸軍大将の長男で昭和天皇の通訳を務めた真崎秀樹が、アレクサンドラ英王女を迎えた昭和三十六年十一月の宮中晩餐会のエピソードを晩年になって明かしている。

 敗戦後初めての英国王室の賓客で、天皇は英ガーター勲章を着用して臨んだ。日英同盟下、日露戦争直後に明治天皇に授与され、現在も外国人は欧州の国王・女王七人と天皇だけという最高位勲章。第二次大戦中いったん外されたが、この宴での”復活”を英国側が認めた。

 当時二十四歳だった王女に天皇は、皇太子時代の欧州歴訪で英国王ジョージ五世に慈父のように親切にしてもらった思い出を語った。国王が、若き士官候補生として訪日した時に彫らせた刺青を見せてくれたと懐しそうに語ったという(加瀬英明編『宮中晩餐会』)。

 ジョージ五世の人柄と立憲君主としての覚悟に感服し、戦後も皇太子(現天皇)に同国王の伝記を読ませた昭和天皇の思い、勲章佩用の重みを示すエピソードだ。

 国賓歓迎晩餐会は、世界の元首と天皇との人間的ふれあいと両国の歴史的な関係とが交差す・・・