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連載

追想 バテレンの世紀 連載98

「海賊」から商人へ化けた蘭人
渡辺 京二

2014年5月号

 平戸のイギリス商舘には、一六一七年八月アドヴァイス号が入って以来、一隻も英船の来港を見なかったが、翌一八年八月アテンダンス号が、意外にもオランダの捕獲船となって入港した。

 従来、英船はまるで馬につくあぶのようにオランダ船のあとをついて廻ると評されており、オランダのあとを追って香料諸島に進出、一六一六年にバンダ諸島のひとつを占領するや英蘭間の緊張が高まり、両国の船は出会い次第砲火を交えるようになった。一七年に対英強硬論者のクーンが東インド総督となると、香料諸島に姿を現わす英船を捕獲し始めた。アテンダンスは一八年に捕獲された二隻のうちの一隻だった。

 平戸のイギリス商舘長コックスは激怒し、オランダの「海賊行為」を訴えるべく、急遽江戸へ上った。幕府への陳情はコックスの依頼を受けたアダムズが当った。しかし幕閣はコックスの告訴状をまともに検討せず、コックスの日記には一〇月二二日から、一一月一八日空しく江戸を発つまで、「アダムズがわれわれの事務処理をしてもらうため終日宮廷にいたが、何事も仕遂げなかった」という趣旨の記述が一四回繰り返されている。後日コ・・・