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社会・文化

「地獄絵」が密やかなブームに

「おぞましき恐怖」が共感を得る理由

2014年7月号

 今、〝地獄〟を描いた絵本が売れている。一九八〇年初版の『絵本 地獄』(監修 宮次男 風濤社)は、今年に入って第三十七刷を発行した。確かに、「地獄」の概念は、仏教徒であるなしにかかわらず、常に日本人の死生観や倫理観の根底にあるといってよいが、二十一世紀の現在も愛され、流行とまで言われる現象の理由はどこにあるのだろうか。 人間の哀しい性を反映  地獄とは、生きとし生けるものが、今生の行状に応じて輪廻転生し続けるという仏教世界観(天、人、修羅、畜生、餓鬼、地獄の六道)のなかで、許されざる罪を犯した者が報いを受ける最悪な世界である。古代インドで成立した地獄の思想は仏教にとりこまれ、八熱地獄、八寒地獄、孤地獄などで構成される世界が、代表的な地獄として経典や論書で説かれ、絵画化されているのは八熱地獄(=八大地獄)である。  日本の現存最古の地獄絵は、奈良時代八世紀、東大寺二月堂の本尊十一面観音像の光背背面に線彫りで、燃え盛る炎の中にうごめく裸の人間や髑髏が描かれている。  人間の生活は、自然や人災の脅威、病気、死の恐怖から逃れられない。原因を知る由もない時代・・・