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連載

不運の名選手たち 55

的場文男(地方競馬騎手)三十三回挑んで勝てない「ダービー」
中村 計

2014年7月号

 六月一日の日曜日、東京競馬場で第八十一回「日本ダービー」が盛大に開催された。そのことは知っていても、三日後、四日の水曜日の夜に、大井競馬場で第六十回「東京ダービー」が開かれたことを知っている人はそうはいまい。

「大井の帝王」と呼ばれる騎手、的場文男がこれまでに積み上げた勝利の数は六千六百二勝(六月二十三日現在)。地方競馬において史上二番目、かつ現役最多記録だ。ちなみに中央競馬の最多勝ジョッキーは断トツで武豊だが、それでも三千六百四十七勝(同)である。的場の記録には遠く及ばない。地方競馬は中央競馬に比べ、騎乗数が圧倒的に多いせいだ。

 が、的場の六千六百を超える勝利の中に、存在してしかるべき勝利がひとつだけ欠けている。それが地方競馬最大の祭典、東京ダービーのタイトルである。

 同じダービーでも、中央競馬会が主催する日本ダービーは地上波二局が全国中継したのに対し、東京ダービーは一部の関係者とギャンブラーが熱狂しただけかもしれない。とはいえ、それらを目指すジョッキーにとって、それぞれの栄誉の「輝き」に違いはない。
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