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連載

本に遇う 連載178

朝日新聞の窮境
河谷 史夫

2014年10月号

 新聞はつねに「中間報告」でしかない。それは宿命である。

 一九七〇年代、ウォーターゲート事件の調査報道を指揮してニクソン大統領を辞職のやむなきに至らしめた「ワシントン・ポスト」の編集主幹ベンジャミン・ブラッドリーの持論にいわく「日刊新聞は事実の決定的な解明を待つわけにはいかない」のである。

 彼に会見したことのある立花隆によれば、ブラッドリーはこうも言っている。「新聞というのは、毎日、歴史のドラフト(第一稿)を書いているんだ」。

 記事を書いて間違えることはある。間違えたら、訂正記事を出す。事と次第によっては、謝罪しなければならない。訂正と謝罪は、できれば避けたいところだけれど、これも新聞の宿命である。

 過ちを犯し得るという自覚があれば、間違えたとき、速やかに対応できよう。それを自分は無謬だと思い込んでいたら、過つなど思いもよらない。しかるべき手を打つこともできず、時を逸してとんでもない事態に立ち至り、そのとき慌てても、もう手遅れである。

 この夏、朝日新聞に起きた自壊現象・・・