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経済

裏切りの三菱UFJ「新雇用制度」

契約社員の「差別と格差」が増幅

2014年11月号公開

「三菱でなくケチビシだ」

 三菱東京UFJ銀行(BTMU)で働く契約社員の一人はこう漏らす。BTMUは契約社員を無期雇用に切り替えることを計画しているが、内情を見ると羊頭狗肉の制度となりかねない代物。職員格差は改善されないばかりか温存されるため、銀行内の新たな火種となりそうだ。

「派遣以下」の扱いに

 七月下旬、マスコミ各社は一斉に、BTMUが来年四月から新たな雇用制度をスタートさせることを報じた。三年を超えて働く契約社員を無期雇用に切り替えることで一般行員の定年と同じ六十歳まで働けるようになるというものだ。BTMUで現在働く契約社員は全職員の四人に一人に上る約一万一千人いる。

 新聞各紙はこれを先駆的な試みとして称える論調で伝えた。曰く、「非正規社員の待遇改善を進め人材確保につなげる」「再雇用制度を利用して最長六十五歳まで働くことも可能となり、正社員と同じ扱いになる」。

「有期労働契約」を五年を超えて更新する際に、労働者側が無期雇用に転換を求めることができるという改正労働契約法が昨年四月から施行された。従業員の囲い込みのために他業種では無期雇用への転換が広がっているが、銀行業界では先駆けとなることは事実だ。

 マスコミ報道の効果もあり評判を呼んだが、同行の事務センターで働く女性契約社員は浮かない顔でこう漏らす。

「ボーナスも退職金もなく、時間給のまま。これじゃあ実質『非正規』ですよ」

 大々的に喧伝されたのとは裏腹に、実際は「偽装社員」とも呼ぶべき制度がつくられようとしている。本誌はBTMUが策定した「無期雇用転換した契約社員を対象にした就業規則案」を入手した。そこには、たしかに給与は「時間給」のままで、ボーナスや退職金はおろか定期昇給もないことが明記されている。「成果報酬」について「支給することがある」としているが、基準はなく誰も期待していない。同行の人事制度に詳しい関係者はこう解説する。

「銀行側は、業務ごとに時給単価が決まっていると考えている。営業職なら二千円、受付は一千四百円、内部事務は一律九百円というように。だから、雇用形態が契約から無期に変わっても時給単価は変えない」

 一方で、同じく女性の多い一般職行員の場合、「初任給こそ時給職員とトントン」(前出関係者)だが、勤続年数を重ねるにつれて給与は上昇していく。ほぼ同じ業務をしながら格差が広がっていくのだ。それだけなら、他の銀行や企業でも見られる光景かもしれない。しかしBTMUの場合、「身分制度」を彷彿とさせるあからさまな差別待遇が行われる。ある女性契約社員が語る。

「行員は食堂で、三百三十三円で昼食をとれるが、私たちは五百三十三円かかる。理由を尋ねたら『銀行への貢献度が違う』と言われた」

 契約社員の貢献が必要だからこそ、一万人以上雇用しているのではないのか。むしろ低い待遇で一般職行員と同等の仕事をこなす彼女たちの貢献は大きいのではないかという疑問が湧くが、問題はこれで終わらない。昼食を買うのをやめて食堂に弁当を持ち込んで食べていたところ、「注文しないなら湯呑みも箸も使うなと言われた」(前出女性契約社員)という。天下のメガバンクとはとても思えぬ振る舞いだ。冒頭の契約社員が「ケチビシ」と言うのも頷ける。

 就業規則案に戻ると、さらに明確な格差と、喧伝された無期雇用の化けの皮が剥がれる。

「無期といっても銀行は好きな時に切れるんですよ」

 別の契約社員はこう不満を漏らす。規則案の「解雇」に関する条項にはこう記されている。

「拠点および施設の閉鎖、業務量の著しい減少など業務上の必要性が失われた場合」

 小難しい文言だが、要するに担当している仕事が減れば解雇できるということだ。金融ユニオンという個人加盟組合がこの条項について「著しい業務量の減少とはどういう状況を指すのか」と質した。これに対して銀行側は「合理化による事務の集中で仕事が減った方の拠点は、この条項の対象となる」と回答した。

 たとえば、二カ所に分散されていた拠点で行っている事務処理を片方に集約する合理化が行われた場合、もう一方の無期契約社員は切られるのだ。行員であれば、悪くとも別の部署に異動になるだけだろう。

 派遣社員であれば、派遣先の仕事がなくなれば会社が別の派遣先を探してくれる。担当業務が減ったら即解雇になるのであれば、

「派遣以下」にさえ見える。

「新たな身分」が作られる

 また、三年を超える契約社員全てが対象であるかのように報道されたが、同行は「無期になるのには一定のハードルがある。勤務評価六段階で下位の二段階は採用できない」としている。三年も契約を更新しているのだから勤務評価が低い人間がいるとは思えぬが、ここで銀行の匙加減を使えることになるのだ。

 結局待遇改善といえそうなのは「半休制度や休職期間の新設など部分的なものにすぎない」(同行関係者)。これでは、これまであった行員と契約社員のほかに無期雇用転換社員という「新たな身分」を作ったようなものだ。

 本誌の取材に対しBTMUは「処遇は期待要件、職務内容や職責に応じて設定している。雇用条件に不合理な差異があるとは考えていない。解雇についても法令に則り適切に対処する」(広報部)と回答した。

 BTMUが今回の無期雇用転換策を打ち出したのには事情がある。本誌五月号で既報の通り、同行では昨年、派遣社員の「偽装請負」が発覚した。請負契約を結んでいた会社から派遣されてきた社員に対し、BTMUの社員が直接業務命令を出していたという典型的な事案だった。

 昨年七月に東京労働局から是正指導を受けていたことを今年三月、参院の委員会質疑で取り上げられ、BTMUは批判に晒された。折しも、四月に平野信行頭取が初めて全国銀行協会会長に就任する直前だ。

 今回の無期雇用転換も、この事件で負ったマイナスイメージを改善させる目的があるようだ。BTMUは、やはり春から契約社員の労働組合加入を認めることを労使間で合意している。これについて、一般行員から不安視する声が出ており火種として燻っていた。そこに無期雇用転換社員を設ければ軋轢は増加して、火種は拡大し大きく引火しかねない。

 欺瞞に満ちたBTMUの新制度。全銀協会長行としての品格が問われかねない。

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