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連載

皇室の風 77

ファビオラの柩と黒い喪帽
岩井 克己

2015年1月号

 美智子皇后がベルギーのファビオラ元王妃の葬儀に参列した。

 平成二十六年十二月十二日、ブリュッセルのサン・ミッシェル大聖堂で営まれた葬儀には各国の王室関係者、市民ら約一千三百人が参列。黒いロングドレス姿で沈痛な面持ちの皇后にベルギー側は最前列の筆頭格の席を用意した。全ての参列者が起立して迎えるなか、すぐ側を兵士らに担がれた元王妃の柩が入場した際、皇后はただ一人深々と柩に向かって頭を垂れ哀悼の意を表した。小さな黒い帽子が柩に触れそうだった。

 ファビオラ元王妃は知的で穏やかな人柄で王族、国民の親愛を集めた。夫の故ボードワン一世元国王との間に子はなかったが、甥のフィリップ国王夫妻ら王族が哀しみの表情で見守り、幼い王女・王子が次々に立って愛らしい声で故人を偲んだ。独身時代から児童文学者として知られた人らしい簡素な葬儀だった。

 皇后は平成十四年に国際児童図書評議会(IBBY)世界大会に出席するためスイスのバーゼルを私的に訪問したことはあるが、単独での公式外国訪問は初めてで、きわめて異例のことだ。フィリップ国王は、高齢の皇后が・・・