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連載

誤審のスポーツ史 02

「正義」に殉じたエースストライカー
中村 計

2015年2月号

 誤審は判定に救われた側をも、ときに「被害者」に陥れる。

 日本サッカー界を揺るがす大誤審が起きたのは、二〇〇二年十一月十日。全国高等学校サッカー選手権大会岡山県大会の決勝、作陽高校-水島工業の一戦だった。

 1-1の同点のまま、決着は延長へともつれ込んだ。当時の岡山県大会は延長Vゴール方式を採用していたため、どちらかがゴールを決めた時点で試合終了だった。

 延長前半、作陽の二年生エース青山敏弘がペナルティーエリア右付近から、強烈なシュートを放つ。ボールはキーパーの指先を弾き、サッカーゴール左奥の支柱を叩いた。いわゆる「ビューティフル・ゴール」だ。青山ら作陽の選手はベンチにいる監督・野村雅之のもとへと走り出し、水島工の選手たちは呆然と立ち尽くした。

 が、笑顔で選手らを迎えようとしていた野村は、慌てて「戻れ!」と追い返す。審判がまだ走っている。水島工の選手たちも何事もなかったかのようにボールを回し始めた。グラウンドでは、試合が続行していたのだ。

 左奥の支柱に当たった青山のボー・・・