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連載

続・不養生のすすめ52

コレステロールへの理論武装を
柴田 博

2015年4月号

 筆者が医師になったのは半世紀前である。医師になるや否や職場で働く人々の健康診断を行う仕事に従事した。これは職業としてではなく研究のためであった。職業は、大学病院で働く臨床医であった。ただし、大学の仕事は無給であったので、厳密には職業とはいえない。生活費は、週に二回の外勤で稼ぐのが、新米医局員の平均的な姿であった。

 大学では、入院患者の診断と治療に従事する一方、何らかの研究グループに属した。筆者は、循環器疾患の疫学研究のグループに加わった。地域や職域で元気に生活している人々の追跡調査をして、病気の原因を特定し、予防法を確立するのがこの研究の目的であった。

 この頃は、職場に出向くにしても、必要に応じて大学病院に来ていただいて精密検査を行うにしても、ともかく、対象となる人々の個人レベルの健康や病気の状態を把握すればこと足りた。職場の環境や、それが従業員の健康にどのような影響を与えているかを見極めることは求められていなかった。

 しかし、時代は変化した。一九九六年労働安全衛生法の改正により、産業医制度が導入され、環境問題を・・・