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連載

皇室の風81

慰霊の旅が投げかけるもの
岩井克己

2015年5月号

 天皇・皇后が四月八日から一泊二日の旅程でパラオを訪問し、激戦地ペリリュー島で「西太平洋戦没者の碑」に供花した。十年前のサイパンに続く旧南洋群島への「慰霊の旅」である。

「海の中もなかなかきれいです。水のすんでゐる事はかくべつで、波の靜かな所でふなばたからのぞいて見ると美しい海底のありさまが手に取るやうによく見えます。青緑紅紫、目のさめるやうに美しい魚の群が、珊瑚の林や海藻の間をぬつて泳いで行く。何だかおとぎばなしの世界にでもまよひこんだやうです」(尋常小學國語讀本『トラック島便り』)

 昭和五十四年八月六日、初めて接見したミクロネシアの子供たちに天皇(当時皇太子)は「教科書で『トラック島便り』を読んでから、いつか南の島に行ってみたいと思うようになった」と語っていた(小林泉『ミクロネシアの日系人』より)。トラック島は戦時中、連合艦隊の泊地となり米軍の大空襲にさらされた。

 パラオに出発する朝、見送りの皇太子、秋篠宮、安倍晋三首相らを前に天皇は「太平洋に浮かぶ美しい島々で、このような悲しい歴史があったことを、私どもは決して・・・