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経済

積水ハウスの不動産取引に「重大疑惑」

「仲介手数料」が闇に消える奇怪

2015年8月号公開

 住宅最大手、積水ハウスを取り巻く不動産取引をめぐって、このところ奇妙な動きが表面化し、業界関係者らの間に揣摩臆測が広がっている。「相対で基本合意が成立、いざ正式に売買契約書を取り交わそうという段階になるとなぜか、積水側から依頼されたとかいう仲介業者が忽然と現れて取引手数料やコンサルティングフィーなどを掠め取っていく」(不動産準大手幹部)というのである。

 不動産取引の仲介手数料は宅地建物取引業法で上限が決められており、四百万円超の物件なら取引額の三%以内(プラス六万円)。売り手と買い手の双方に請求できるため、仮に百億円の取引がまとまれば最大六億円超が転がり込むことになる。手数料を支払う側からすれば決して少なくない金額だ。それなのに「相対で合意できている案件に何故、仲介業者を絡ませる必要があるのか」。この春、積水との取引で「何やら訳の分からぬままに多額の手数料をふんだくられた」という、ある外資系不動産会社首脳はこう不満をぶつける。

 業界関係者らがさらに首を捻るのは、取引に登場する仲介業者の名前にまるで聞き覚えがないのはもちろん、「積水とは何ら資本関係がないとされていること」(中堅不動産首脳)だ。子会社や系列の仲介業者を取引に潜り込ませるというのなら分からぬでもない。取引相手先から手数料を徴収することで、グループの収益を極大化できるからだ。しかし、資本関係がないとあっては積水側も業者から手数料を取られるだけ。それこそ何のメリットもない。だいいち「資本関係がないというのなら、その業者は公開されていないハズの取引情報を一体どこから手に入れているのか」(同)といった疑問も湧き起こる。

「ドン」と仲介二社をめぐる噂

 そしてそんな業界関係者らの不審と不信の中心に位置しているのが「井智」と「創紀」なる二つの仲介会社だ。ともに登記上の本社は名古屋市中区にあるが、企業活動の拠点は判然としない。「都内をはじめとした首都圏や九州など、中京圏以外のエリアでの取引にもたびたび姿をみせている」(不動産準大手関係者)からだ。

 実は両社をめぐっては、二〇〇八~〇九年頃にかけても積水との〝癒着〟ぶりが俎上にのったことがある。積水側から両社に対して、過去二年間で四十五億円にものぼる取引手数料が流れているといった「怪文書」がネットメディアなどを駆け巡ったためだ。事実なら、手数料を上限の三%と仮定して逆算すると、最低でも積水の行った一千五百億円規模の取引に両社が関わっていたことにもなる。

 ただこの問題はその後、「どうやら国税当局が強い関心を示しているらしい」との情報が流れた途端、ぴたりと鎮静化。以来、「業界の間でも両社の名前が取り沙汰されることはほとんどなかった」(事情通)という。だとすれば、「身の危険を感じていったんなりを潜めた」(同)ととれなくもないが、ここにきて再び蠢きはじめたということは、そろそろほとぼりが冷めたと見越してのことか。

 それにしても不可解なのは、手数料を支払ってまで取引に両社を介在させる積水側の意図だろう。かつて鉄鋼業界では「ヒモ付き」と呼ばれる国内自動車メーカーとの鋼板直接取引にわざわざ総合商社を絡ませ、「ねむり口銭」といわれた手数料を商社側に落としていた商慣行があった。海外市場開拓などで商社側の営業力に頼らざるを得なかったことに対する、いわば「見返り」(高炉大手幹部)だ。しかし余程の弱みでも握られていない限り、積水ほどの企業が「ねむり口銭」を払ってまで見返りを期待しなければならないような関係を仲介二社との間で抱えているとは、どう考えても想像しづらいのが実情だ。

 そんななか業界内で飛び交っているのが、「ドン」と異名をとり、社長時代を含めて積水に十七年間にわたって君臨している和田勇会長兼CEO(最高経営責任者)と仲介二社をめぐる何やらキナ臭い噂だ。要するに「仲介二社が受け取っている手数料収入の中から、実は一部が和田会長にキックバックされているのではないか」(不動産大手関係者)というわけだ。

 和田会長は一九六五年に積水に入社後、名古屋営業所に配属。以来、名古屋東営業所長、中部第一営業部長、同第一兼第二営業部長を歴任するなど中京地区での営業経験が豊富で、同地区に「強固な地縁・血縁を築いた」(積水関係者)ともいわれている。専務時代には「中部の和田天皇」(積水OB幹部)とも呼ばれたほど。トップに座ってからも中部圏出身者や同地区の営業担当者を積極的に登用し続けたとされている。

 それだけに業界関係者の一人は「和田会長が仲介二社を陰で操っているのか、それとも仲介二社が和田会長の中部への思い入れの深さに付け入る形で取り入っているのかは分からない。ただ経済合理性からいって通常なら到底理解できない取引実態を踏まえると、両者の間に何らかの浅からぬ因縁があるとみた方が説明がつく」とも言い切って憚らない。

十七年にもおよぶ長期支配

 不動産業界では今年四月、東急不動産の三枝利行社長が、栃木県でのメガソーラー建設事業の下請けとして夫人が懇意にしていた業者を潜り込ませる見返りに、この業者が鹿児島県内に所有していた高利回りの土地を譲り受けたとの疑惑が一部の週刊誌で報じられ、就任わずか一年で退任に追い込まれるという事件があったばかり。その後六月になって親会社、東急不動産ホールディングスの立ち上げた調査委員会が「利益供与や反社会的勢力とのつながりはなかった」と結論づけたものの、「個人としてコンプライアンス規則への抵触があった」とされて取締役の肩書も外されるなど、経営トップの不祥事に「いまも業界全体が騒然とした空気に包まれている」(前出事情通)という。

 だが、和田会長と仲介二社をめぐって今回取り沙汰されている噂が仮に事実だとすれば、事は単なる役職解任くらいで収まるハズもない。取締役としての善管注意義務違反として民事上の責任を追及されるのはもちろん、背任罪として訴追されかねない。キックバックされた金を私的に流用しているなら、下手をすれば特別背任だ。

 積水は積水化学のお荷物部門だった住宅事業を切り離す形で設立された。その当時、百億円程度に過ぎなかった売上高を今や二兆円に迫る規模にまで押し上げた功労者の一人が和田会長であることは、積水関係者ばかりでなく、業界関係者の誰もが等しく認めるところだ。だが、その十七年にもおよぶ長期支配で「すでに人心は倦み、組織の風通しは年を追って悪くなっている」(グループ関係者)。社員による建築確認書偽造事件や一級建築士なりすまし事件など、二〇〇〇年代半ばあたりから不祥事が後を絶たないのもその弊害だろう。幹部の間からも「年貢の納め時」との声が聞こえてくる。