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経済

《クローズ・アップ》 浅野敏雄(旭化成社長)

「杭打ち不正」で剣ヶ峰に立つ

2015年11月号

「足をすくわれる」という言葉を今、身に染みて感じているのは旭化成の浅野敏雄社長(六十二歳)だろう。傘下の事業会社、旭化成建材が請け負った横浜市のマンション建設で建物を支える杭打ち工事で支持層に届いていない杭のデータを改竄する不正を行っていたからだ。マンションは傾き、住民の足元が危うくなっただけでなく、旭化成の経営の地盤も揺らいでいる。

 旭化成建材という社名からはグループ末端の子会社という印象もあるが、純粋持ち株会社である旭化成が持つ「ケミカル・繊維」「住宅・建材」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」の四事業領域、のべ十社の事業会社のひとつであり、最も有力な「住宅・建材」の部門会社。主力事業のひとつと言って間違いない。

 化学繊維から始まった旭化成だが、現在の売り上げの三分の一は「住宅・建材」が占め、営業利益の四〇%近くもこの部門が稼いでいる。「ヘーベルハウス」のブランドで知られる住宅は今や旭化成の顔とも言っていい存在だ。九月に茨城県を襲った洪水では、決壊した鬼怒川周辺で大半の住宅が濁流に流されるなかでヘーベルハウスの住宅だけが残ったことで強度・・・