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連載

皇室の風88

山で死んだら草ぼうぼう
岩井克己

2015年12月号

 全国戦没者追悼式で国が遺族たちに君が代斉唱を指示する、取材記者たちも式典の斉唱で一緒に起立する……十数年ほど前にはありえなかった光景が今は当たり前となり、三十年前からずっと立たない記者は「珍獣」視されるようになった。

 驚いたのはそれを「密告」する記者仲間が現れたことだった。

「政府が右と言っているものを、我々が左と言うわけにはいかない」と発言するNHK会長が現れ、「偏向メディアは広告収入から締め上げろ」などと公言する議会人が現れる時代になったのだから、嘆いても詮無いことなのかもしれない。

「歳歳年年人同じからず」と驚いたエピソードのもうひとつは、サイパンで「海ゆかば」の歌を聞いた時のことだ。

 天皇・皇后は戦後六十年の節目となる平成十七年六月、慰霊の旅でサイパンを訪れた。日米の軍人のみならず、非戦闘員の民間日本人、朝鮮半島出身者、チャモロ族などの地元島民も多数が犠牲となった「玉砕の島」だ。海ではマリアナ沖海戦で日本海軍の空母戦闘能力は壊滅した。

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