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連載

誤審のスポーツ史14

もしも五ヤード前だったなら
中村 計 (ノンフィクションライター)

2016年2月号

 アメリカンフットボールならではの誤審だった。

 一月三日、東京ドームで学生王者と社会人王者でアメフト日本一を争うライスボウルが開催された。今年の顔合わせは、立命館大学とパナソニック。戦前、社会人王者が六連覇中ということもあって、パナソニックの優勢が伝えられていた。ところが、立命館が予想以上に健闘し、最後の最後までもつれる展開に。そして残り七秒、19-22と三点を追う立命館は、同点フィールドゴール(以下、FG)をねらった。距離は四十九ヤード。決めれば、大会最長タイとなる距離だった。

 立命館大のキッカーは、三年生の栃尾優輝。アメフトのキッカーはありとあらゆる団体競技の中で、もっとも孤独な存在かもしれない。完全分業制のアメフトはキック専門の選手だけでも通常、キッカーとパンターの二人がいる。キッカーは地面に置いたボールを蹴る人、パンターは宙に上げたボールを蹴る人だ。練習中は仲間と離れ、キックに明け暮れる。それだけに失敗すれば、その存在意義のほとんどを失う。

 大学トップクラスのキッカーなら、四十九ヤードは練習では難なく決めら・・・