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連載

誤審のスポーツ史18

抗議とブーイングで変わる「採点」
中村計

2016年6月号

 採点に疑問を覚えたら即刻抗議をする。体操界では、そんな姿を頻繁に見かけるようになった。
 記憶に新しいところでは、二〇一二年のロンドン五輪における男子体操団体もそうだった。エースの内村航平が最終種目のあん馬でミスをし、日本は四位に転落。ところが直後、日本チームが猛抗議し、ビデオ判定の末に主張が認められ二位に繰り上がった。
 こうした姿勢は、〇四年のアテネ五輪のときに起きた一つの誤審事件が教訓になっている。大会六日目の八月十八日、男子個人総合で、最終種目を残して首位に立っていた韓国のヤン・テヨンは、「金メダルだと思っていた」と振り返る。ところが、米国のポール・ハムは最後の鉄棒で、新月面宙返りで着地を決めるなど完璧な演技を披露。九・八三七という高得点を挙げ、大逆転で優勝を飾った。対照的に、テヨンは鉄棒で失敗し、同僚のキム・デウンにも抜かれ、三位に沈んだ。テヨンは「鉄棒でミスをしたし、この結果は受け入れたい」と敗戦を素直に認めた。金メダルと銀メダルの差は、わずか〇・〇一二。これは五輪史上、最小の差でもあった。三位との差も、わずか〇・〇四九だった。
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