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連載

美の艶話6

ズルイ男としたたかな女
三浦篤 (東京大学大学院教授)

2016年6月号

 年上の魅力的な男性に誘惑的だが曖昧な態度をとられたら、憧れを抱く女性は心乱れ、翻弄される。しかも、そのズルイ男が妻帯者で、ライヴァルの姿までちらついたりすれば、悩みはますます深まるばかり。画家マネと印象派の女性画家ベルト・モリゾとの関係はほぼそれに近い。
 三十六歳のマネが二十七歳のベルトとルーヴル美術館で出会ったのは一八六八年のこと。マネと同じ上流ブルジョワ階級のお嬢様だが、絵画への志は筋金入り、《草上の昼食》や《オランピア》を発表したスキャンダラスな画家マネに強い興味を抱いていた。知性と美しさを兼ね備えたベルトに心惹かれたマネは、早速《バルコニー》(一八六八〜六九年)のモデルを依頼し、以後、画家として助言する関係が芽生え、家族ぐるみのつき合いに発展していく。
 しかし、マネには妻シュザンヌがいて、ベルトもよく知った仲。尊敬するマネに対してベルトの気持ちが深まっても、恋愛感情を秘めた友情を越えることは難しい。マネの方もまた、同じ画家とはいえ、未婚女性と親しくつき合うのは不倫スキャンダルの危険と背中合わせ。それでも、一八六九年から七四年にかけて計十一点、ベルトの多・・・