三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

WORLD

ASEANで変わる「産業地政学」

優等生・タイの「凋落」と後発国の台頭

2016年5月号

 東南アジア諸国連合(ASEAN)のどこに投資すべきか―。ASEANブームのなかで日本企業に突きつけられた課題だ。インフラが整っているがコストの高いタイ、マレーシアか、まだ不十分だが成長力のあるベトナム、ミャンマーか、といった選択が一般的だが、今、考えるべきポイントはASEANに現出しつつある新しい産業地政学だろう。物流、人口動態、政治がASEANの地政学を動かす力となっている。
 タイのバンコクから東南に高速道路を車で一時間。巨大なコンテナヤードが広がり、トレーラーがひっきりなしに行き交うレムチャバン港はASEANの主要港湾のひとつだ。トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車からパナソニック、日本電産、ブリヂストン、クボタまでタイに生産拠点を置く五千社近い日系メーカーが利用する。一九九一年の供用開始以来、貨物取扱量は増え続け、インドシナ半島の最大港湾として君臨してきた。だが、ここにきてコンテナ取扱量ではレムチャバン港を脅かす存在が現れた。ベトナム南部のサイゴン港だ。二〇一四年の実績では世界の港湾順位でレムチャバン港が二十一位、サイゴン港が二十三位と僅差に迫られたうえ、伸び率はサイゴ・・・