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連載

追想バテレンの世紀 連載122

家光の密命
渡辺 京二

2016年5月号

 家光は加々爪忠澄の報告を得て、オランダ人もキリシタンであるという事実に、さらに疑念をかき立てられたのだろう。特に聞き逃せないのは、彼らの建造物にキリスト生誕紀年が記されているという一件だった。
 その年のうちに、井上政重を上使として平戸へ派遣して、商館倉庫を破却させたのは、オランダ人に厳重な警告を与えようとしたものと考えられる。
 政重の一行は一六四〇年一一月九日に平戸オランダ商館を検分した。カロンの記するところでは、申渡しは大要次の通りだった。「皇帝は貴下がポルトガル人と同様キリシタンであるとの、確かな報告を受けている。貴下は日曜を守り、キリスト生誕の年を貴下の家の破風に書いている。十戒、主の祈り、洗礼、晩餐礼、新旧約聖書、モーゼ、預言者、使徒などを信じている。ポルトガル人との違いを我々は小さいと考えている。貴下がキリシタンであることは以前から知っていたが、別なキリシタンと考えていた。そこで皇帝は私に、上記の年号の入っている建物を、例外なしに取り壊させるよう命令した。これは最近建てられた北側から始め、全部を取り壊すように。日曜を公に守ることは許さない。商館長は今・・・