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連載

皇室の風93

メディア・スクラム
岩井克己

2016年5月号

金澤一郎前皇室医務主管(神経内科医)の追憶を書いた。平成五年の雑誌などによる「皇后バッシング」のあと倒れ、声を失った皇后の主治医として取材してから二十余年のつきあいとなった。詳しく書きとどめたいことも少なくないが、いずれ稿を改めたい。
 ただ、皇后バッシングは皇室の前代未聞の危機で、皇室とメディアのありようについても様々に考え込んでいた時に金澤から聞いたひと言は強く耳に残っている。
 バッシング記事は数誌が主導し、多数の雑誌が尻馬に乗って、まるで暴風雨のように吹き荒れる様相だった。しかし、当日の祝賀行事を前にして皇后が倒れると、形勢は一気に逆転。複数の雑誌社の社屋や社長など関係者宅に銃弾が撃ち込まれた。
 この頃、筆者が「声を失ったのは、皇后サイドからの〝反撃〟になった形ですね」と問うと、金澤はきっぱり否定した。
「誕生日の回答を見てもわかるように、このことで批判の自由が萎縮することは望んでいらっしゃらない。しっかりしておられる」
 倒れる直前の十月二十日朝に発表された文書回答で、批判記事について皇后は次のように答えていた。
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