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連載

日本の科学アラカルト69

日本の産業発展の鍵を握る  新放射光施設計画

2016年5月号

 現在、東北大学など東北地方七国立大学が計画を立案し、地元財界が中心となって支援を募る形で「東北放射光施設」の建設プロジェクトが進行している。狙いは、今後の日本の学術や経済産業の発展を支える世界最高レベルの中型高輝度放射光施設を建設することだが、残念なことにその重要性への理解が進んでいるとは言い難い。
 電子シンクロトロン(円形または長円形の電子加速器)で光速近くまで加速された高エネルギー自由電子は、特殊な磁石群を用いて弧状や波形曲線状軌道を描くように制御すると、軌道となる曲線の接線方向に強い光を放出する。通常、電子は微小粒子だと考えられているが、実際には電子雲とでも呼ぶべき不定形なエネルギー塊である。超高速運動中のそのエネルギー塊が強い磁場で曲げられると、エネルギーの一部が剝ぎ取られ、曲線の接線方向に光となって飛び出す。高輝度で強い指向性(拡散せず一定方向に進む性質)をもつこの白色光は「放射光」と呼ばれ、近年、多領域にわたる先端科学研究に大きく貢献するようになった。日本では、一九九七年に兵庫県佐用町に建設された大型放射光施設「SPring-8」が、世界最高の能力を誇る八十億・・・