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連載

本に遇う 連載201

天皇制は必要なのか
河谷史夫

2016年9月号

 らくだ・こぶに作『国生み』という『古事記』再話がある。わが愛読書の一冊で、書き出しがいい。
「がらんどうがあった。大地は、まだなかった。がらんどうしかないけれど、まんなかはあった」
 イザナギとイザナミが現れる。大きな矛がおりてきた。ふたりはそれをおろし、力をあわせて「こおろこおろ」とかきまわす。すると、島々ができ、陸地が生じた。それからふたりは、神々を生み、人間を生んだ。―天皇をいただく日本創生の物語である。
 らくだ・こぶにとは、「瞬間の王は死んだ」と宣して詩人をやめた谷川雁が、日本語と英語で教材用絵本の物語を作っていた時代の名乗りである。雁が書いた作品のなかで、これが一番の傑作である。
 締め括りの一文がまたいい。
「遠い、遠い昔、じぶんたちの国がこんな風にしてできたと語りつたえているひとびとがあった」
 わたしはこのくだりが好きで、口ずさむときがあるが、NHKの特ダネで始まった天皇の「退位意向」騒ぎのなかで、ふと「遠い、遠い昔……」が蘇ったのは、各紙の反応を一覧していて、東京新聞の八月九日・・・