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政治

《政界スキャン》

「リベラル保守」は死んだのか

2016年10月号

 大きな挫折をした政治家をどう懐かしむかは難しい。
「自民党のプリンス」
「首相の座に一番近かった男」
 九月九日死去した加藤紘一元官房長官の訃報には、どのメディアも同じ呼び名が並んだ。
 ジャーナリズム特有の酷薄さを考えさせられる。舌で転がしてみると分かるが、どちらも「畏敬の念」「親愛の情」を素直に表した言い方とは違う。
 折しも回顧ブームの田中角栄元首相に対するニックネームの数々と比べれば、語感の体温差は明らかだろう。
「加藤の乱」
 の呼称にも、どこか揶揄する感じがある。クーデターが成功すれば「変」、失敗したら「乱」と使い分けるのが慣わしだとしても、「革命」や「政変」に遠く及ばず、「造反」や「反逆」の勇ましさにも欠け、「戦い」にすら持ち込めずに「自滅した人」として突き放す冷淡さである。これも「勝てば官軍」になびくジャーナリズムの一方的な命名だった。
 どんな無残な失敗でも、ほとんどは棺で覆われれば赦免されるのに、加藤氏には死してなお敗残者と見る視線がついて回る。平成の政治観に、リベラルを冷笑する風潮が・・・