物語は、刑事ドラマのマニアにはおなじみの光景で始まった。
　今夏のある晴れた日のこと。キノコ狩りの老人が、深い森の中で、白骨化した子供の遺体を発見した。
　場所はドイツ・チューリンゲン州のバイエルン州境近く。冷戦時代には東西両独の壁があった地区で、長年人間の出入りが少なく、今もふんだんに自然が残る。
　発見から数カ月後の十月半ば、検察当局は驚愕の事実を公表した。
　ＤＮＡ鑑定の結果、遺体が、十五年前の二〇〇一年に行方不明になった、バイエルン州の少女ペギーちゃん（当時九歳）であること、遺体の近くに、ウーヴェ・ベーンハルト容疑者（一一年死亡）のＤＮＡが発見されたことだ。

異次元のスキャンダル

　ベーンハルトは独国内で二〇〇〇年から〇七年の間に起きた、計十人の連続殺人事件の容疑者のうちの一人。しかも、被害者の大半がトルコ系男性で、容疑者三人が「地下の国家社会主義者（ネオナチ）」という秘密組織に属していたことから、ネオナチによる前代未聞の凶悪事件として、ドイツ全土に衝撃を与え・・・