別に、しようと思ってするわけじゃない。気づけばしてしまっている―それがキス。
　口づけは、身のうちを込み上げ突き上げやってくる恋の最初の衝動。甘美なプロローグだ。
　実際、あどけない頃のぎこちないファーストキスを過ぎてしまえば、それは性愛のはじまりを厳かに告げるものとなる。幼い頃は唇を重ねること自体が目的でありゴールだったのが、より大いなるものへの予感と期待に満ちた前兆へ変わるといえばいいだろうか。
　だから性愛の一連の流れのなかでも、キスは別格。精神的な部分を一手に担っていて、互いにどのくらい衝動に駆られているか、本気で本能で求め合っているかは、最初の口づけで全てわかる。そういうつもりで、名にし負うロダンの傑作、その名も《接吻》を改めて見直すと、これではもう互いに離れようがないと、傍からでも諦めがつく気がする。
　なぜなら、ここに表現されている接吻は、あ、と思った瞬間に素早く唇を重ねられて、後は素知らぬ風を決め込まれるような、都会の片隅でよく見かける気まぐれめいたキスではない。隙を突いて唇を奪うくらいに小狡く卑怯になれるなら、いっそもっと卑怯・・・