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社会・文化

囲碁界ホープ「一力遼」の未来

新聞社「跡取り」が目指す棋士の頂点

2016年11月号

 十月二十一日、三重県志摩市の英虞湾を見下ろすホテル十階の和室に二人の若者が碁盤を挟んで正座していた。床の間を背に井山裕太九段、向かいにはダークブルーの背広姿が初々しい一力遼七段。午前九時ちょうどに天元戦五番勝負の第一局が始まった。
 井山九段は棋聖、名人、本因坊、王座、天元、碁聖、十段の七大タイトルを同時制覇している二十七歳の覇者だ。十九歳の一力は天元戦では最年少の挑戦者で、まだ誰もなし遂げたことがない十代での七大タイトル獲得を目指している。
 勝負は右上の競り合いから両者が最強の手を繰り出し、激しい戦いとなった。控室で検討していた棋士が「変化が多くて難しい。これは対局の二人に聞かなくては分からない」と言う程だったが、一力の鋭い攻めを巧みにかわした井山九段が第一局を制した。
 井山九段の壁は厚い。第二局以降、一力がどう立て直すか。大学生の顔も持つ若き勝負師の戦いぶりに囲碁界の関心が集まっている。

最年少記録を次々に更新

 一力が碁を覚えたのは五歳の時だ。父親から手ほどきを受けた・・・