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社会・文化

何を今さら「ボブ・ディラン」

「大衆迎合」ノーベル文学賞の滑稽

2016年11月号

 おめでとう―。
Congratulations!
 この一言がなぜか素直に言えない。米国の歌手ボブ・ディラン(七十五歳)のノーベル文学賞受賞など、本当はめでたくも何ともないと、心のどこかで鼻白んでいるせいだろうか。
 日本時間の十月十三日午後に放たれた「ボブ・ディランにノーベル文学賞」の一報は、「アメリカの偉大な歌の伝統に新しい詩的表現をもたらした」というスウェーデン・アカデミー側の授賞理由ともども、瞬く間に世界中を駆け巡った。今までもノミネートの噂はあったものの、彼のようなミュージシャンによる受賞はこれが史上初となるからだ。
 が、アカデミーによれば、今回の件はあくまでボブ・ディランを現代の「偉大な詩人」として認めた結果であるという。これにはさぞかし賛否両論あると思いきや、さにあらず。英詩の本場イギリスの有力紙『ガーディアン』(十月十三日付電子版)は、名実ともに国内最高の詩人が就任する任期制の名誉官職、「桂冠詩人」を二〇〇九年まで務めていたアンドルー・モーションや、十九世紀詩の研究者として名高いオックスフォード大学英文学教授シェイマス・ペリー・・・