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WORLD

中東「スンニ派」は受難の時代に

イラク・シリアで進む「民族浄化」

2016年12月号

 インターネットのSNSでアラブ世界からのメッセージを観察していると「サダミユーン」(文字通り、サダム・フセイン元イラク大統領を信奉する人々)が投稿する同大統領の肖像写真や動画に静かな人気が集まっていることに気が付く。独裁者のそしりを免れないにせよ、フセイン大統領は、シーア派が多数(約六五%)を占めるイラクにおいて、スンニ派優位の安定した政権を維持していた。何と偉大な指導者ではないか、とイラク国内だけでなく、中東と世界に広がるスンニ派イスラム教徒の世界でその「功績」と役割が再評価されているのだ。
 ただ、サダミユーンの存在はフセイン元大統領が絞首台の露と消えた二〇〇六年以前から知られていた。にもかかわらず、それが大きな潮流とならなかったのは、「冷酷な独裁者」であったという側面が災いしてのことであろう。しかしその後のイラクで、そして隣国シリアで起きていることは「スンニ派総崩れ」とも呼ぶべき宗派主義に基づいたスンニ派の存在そのものが否定される惨状だ。
 そこではかつて旧ユーゴスラビアで行われた「民族浄化」に勝るとも劣らない虐殺や強制移住が、宗派の違いを理由に横行している・・・