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経済

三菱UFJが投資信託で「詐欺商法」

ルール無用の荒稼ぎで「顧客大損」

2017年1月号公開

「元本割れのリスクはほとんどないようなことを言って売りつけておきながらあっさりと元本割れ。そのうえ含み損が出ているからと言ってしきりと新たな商品への乗り換えを勧める。もう頭に来ちゃって。信用できないから覚悟を決めて解約して損切りしました。そしたらちゃっかり解約手数料まで取られて。大損ですよ」。その投資信託を購入した顧客の一人が怒りをぶつける。
 グローバル金融機関ハイブリッド証券ファンド—。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の資産運用会社、三菱UFJ国際投信が設定した単位型投信(運用期間中の追加購入ができない投信)で、グローバルに事業を展開する金融機関が発行する優先出資証券や永久劣後債などのハイブリッド証券を主対象に投資する。そしてこれを二〇一三年以降、個人顧客などに売りまくって手数料を荒稼ぎしてきたのが三菱東京UFJ銀行(BTMU)だ。
 世は空前ともいえる超低金利。普通社債などで運用する投信と比べて配当や利回りの高いこの投信は人気を呼び、トップバンクとしての絶大な信用力もテコになり、「バカ売れした」(MUFG関係者)とされている。

現場は一時「パニック状態」

 ところが昨年十一月、マーケットでちょっとした“事件”が発生する。英スタンダードチャータード銀行(SCB)が、今年一月に予定されていた〇六年発行の米ドル建て永久劣後債(七・五億ドル)の第一回期限前償還を見送り、十年先の二七年一月まで先延ばしすると発表したのだ。
「永久」とはいっても、一定期間内に償還されないと投資家にとってはきわめて妙味が薄くなる。そこで債券市場ではあらかじめ任意の償還日を決め、最初の任意償還日に償還して、その償還分を新たに発行し直すことが慣行となっている。いわば「暗黙のルール」(機関投資家筋)だ。それが公然と反故にされただけに市場は騒然。この劣後債の価格は一気に一四%強も下落し、仏クレディ・アグリコルや英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループなどが発行した類似の債券にも連想売りが広がった。これに慌てたのがBTMUだ。運用期間(三年半)中に期限前償還されることを前提に、売り出した一連の投信十一本にこのSCB債をそれぞれ三・〇〜八・七%の比率で組み入れていたのだからたまらない。SCB債の下落につられる形で当然のことながらこれら投信の基準価格も急落。担当セクションや全国の支店にはいきなり含み損を抱えるハメになった顧客からの苦情や問い合わせなどが殺到し、現場は一時、「パニック状態」(前出のMUFG関係者)に陥ったという。
 無論、BTMUとて期限前償還されないリスクを認識していなかったわけではなかろう。
「一般的にハイブリッド証券には繰り上げ償還(コール)条項が付与されており、この繰り上げ償還の実施は発行体が決定することになっています。繰り上げ償還されることを前提として取引されている証券もあり、これらの証券が市場で予想されていた期日に償還が実施されない場合、あるいは実施されないと見込まれる場合、また市場で予想されていた期日以前に償還される場合には当該証券の価格が大きく下落することがあります」
 購入顧客に交付した書面にはこんな内容のリスク情報が記載されているからだ。だが、記載されてはいても販売の現場にこうしたリスクをどこまでリスクとして認識させ、顧客に対して注意喚起を促すよう指示していたのかは疑問だ。実際、冒頭と別の顧客は「強調されたのは利回りや配当の優位性ばかり。為替変動や信用リスクなどへの言及はあったが、期限前償還云々なんて話は一切聞かされた記憶がない」と振り返る。
「『暗黙のルール』は市場の掟。これに背けば発行体企業はまさに裏切り者扱いで、次に社債を発行する時の調達金利が跳ね上がる。だからこそ発行体はルールを守ろうとしてきたし、ルールがルールとして機能してきた。まさかそれが破られるなんてことはほとんど考えてもいなかった」。BTMU関係者の一人はこう言って“想定外”を繰り返すが、だからといって顧客への説明をなおざりにしていい理由にはなるまい。
 それに市場と約束した期限前償還が見送られた前例は確かに少ないが、「決して異例中の異例というわけではない」(日本生命保険幹部)。〇九年一月にはドイツ銀行が償還見送りを表明しているし、ほかならぬ邦銀でも同四月、みずほFGが〇四年に海外で発行して富裕層向けに販売した十五億ドルの永久劣後債(利率八・三七五%)の初回償還を見送った。〇八年九月に起こったリーマンショックの影響で債券の新規発行コストが大幅に上昇。償還分を再発行すれば調達金利が年一〇%を超える恐れがあったためだ。さらに一一年一月には新生銀行も〇六年二月発行のユーロ建て劣後債(発行額十億ユーロ)の償還を見送っている。

金融商品販売法に抵触の恐れ

 今回、問題となったSCB債は初回期限前償還までの利率が年六・四〇九%。その後は変動金利へと移行し、三カ月物の米ドルLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)プラス一・五一%で推移するといったスキームで設計されている。みずほFG債と同様、リーマンショック前の発行で条件が良く、発行体にとっては見送った方が償還して同様の債券を再び発行するよりも低コストで済む。それだけに大手証券幹部は「経済合理性を考えればスキップ(償還見送り)の可能性もある程度は予測できたハズ。想定外は絶対におかしい」と指摘する。
 ましてSCBは得意としてきたアジア・アフリカ・中東などの新興国や途上国経済の不振でこのところ収益が低迷。一四年以降、人員削減や支店閉鎖をはじめとしたリストラを繰り返すなど大規模なコストカットに乗り出していた。そんな金融機関の劣後債を組み入れているのなら、そのリスクに言及するのは当然で、仮にそれを怠っていたのだとすれば金融商品販売法などに抵触することにもなりかねない。
「私たちは、常にお客さま本位で考え、公正・透明な企業活動を誠実に行います。私たちはお客さまの資産を適切に取り扱い、お客さまの利益が不当に損なわれることがないよう適切に対応します」
 MUFGが昨年五月に策定した「資産運用分野におけるMUFGフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)基本方針」には、自らが順守すべき行動規範の最初にこう謳われている。だが、考えてみれば「顧客本位の業務運営」などそもそも商売の基本中の基本。それを仰々しく規範のトップに掲げなければならないことこそが異様というものだろう。
 当座の手数料稼ぎに走って預かり資産を積み上げても、顧客が投資の妙味を味わえなければいずれ目減りして商売は細る。MUFGはそれを再度、肝に銘じるべきだ。


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