三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

美食文学逍遥2

グルマンをいかに描くか
福田育弘

2017年2月号

 おいしい料理や飲み物を、いかにおいしく感じさせるか。たとえば、料理を事細かく描写するのも、ひとつの方法だろう。昔から多くの文学作品のなかで、おいしそうな御馳走がいかにもおいしそうに描かれてきた。
 しかし、そうした視覚的な描写以上に、効果的なのは、おいしそうに食べたり飲んだりする人間を登場させることではないだろうか。
 フランス文学の美食度が高いのは、そうした人物が生き生きと描かれているからだ。
 前回紹介したブリヤ=サヴァランの『美味礼讃』の飲食場面は、まさにこのような旺盛な食欲が溌剌と展開する場面の典型である。田舎の司祭が食べる羊のもも肉や去勢鶏、若き日の将軍が頬張る七面鳥の丸焼きがおいしそうに感じられるのは、彼らの見事な食べっぷりを通して描かれているからだ。
 そもそも、彼らが食べているのは、羊のもも肉にロワイヤル風という手の込んだソースが使われているとはいえ、メインとなるのはともに家禽類のローストである。司祭は自宅の昼ご飯、将来の将軍は宵の口の田舎の飲み屋でのことだから、ごく普通の日々の飲食風景であり、豪華な宴席ではない。しかし、単純な・・・