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連載

美の艶話 14

肉食「美魔女」の孤独
佐伯順子

2017年2月号

「参謀本部編纂の地図をまた繰開いて見るでもなかろう、と思ったけれども」……泉鏡花『高野聖』一九〇〇(明治三十三)年は、まるで色気のない堅苦しい書き出しで始まるのだが、いざ物語にわけいってみれば、妖しいエロスがにおいたつ。
 高野山に籍を置くある僧侶が、飛騨の山奥を一人、地図を確かめつつ旅する途上、蛭の大群に襲われる。この導入場面がまず圧巻で、「乳の下」や「帯の間」など、僧侶の身体中にぬめぬめとまとわりつく蛭の触感は、なんとも淫靡で、恐ろしいながらも、どこかエロチックである。
 ほうほうのていで蛭の森をぬけた僧侶は、たどり着いた一つ家に宿をこう。そこには不思議な美女がおり、親切にも一夜の宿を承知してくれたうえに、川の流れで旅の汗を流すよう、僧侶を近くの小流に誘うのであった。
 しかし、これが誘惑の始まり。着衣のまま、遠慮がちに水をあびる僧侶に、そんな行儀のいいことをしていないで、衣がぬれないよう「すっぱり裸体」になりなさいと、美女はいきなり背後から男の帯に手をかけて、裸にしてしまう。
 清方の描く美女の姿からは、とてもそ・・・