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連載

日本の科学アラカルト79

死因トップのがんと戦う「ナノカプセル」研究

2017年3月号

 二月、国立がん研究センターの研究班が、がん患者の「十年生存率」についての調査結果を公表した。全国四万五千人の患者のデータを解析したもので、これによるとがん患者全体の十年生存率は五八・五%だった。
 また、「五年生存率」は六九・四%となっており、二十年前と比較して七%ほど上昇していたという。がんの部位によって差はあるものの、この二十年間の生存率の向上は、医療技術の発展の「成果」とみていいだろう。
 がんの治療方法として、手術(外科療法)、抗がん剤(化学療法)、放射線治療(物理療法)が用いられるのが一般的で、最近では免疫療法も注目されている。それぞれについて先端研究は進められているが、中でも劇的な進化をする可能性を秘めているのが薬物による化学療法の分野である。
 がん細胞を薬物によって攻撃し死滅、減少させようという試みの歴史はまだ浅い。放射線療法が十九世紀から始まっていた一方で、本格的な化学療法が始まったのは一九四〇年代になってからだ。神経ガスとしても使われる窒素マスタードを使ったがん治療が行われた後、様々な薬物が各種がんの治療に使われるようになった。{br・・・