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連載

美の艶話 15

「快楽の化身」に見守られて
齊藤貴子

2017年3月号

 もう、寝ようか—。
 この一言が単なる就寝の合図でなくなったのは、一体いつのことだろう。「同衾」なんて言葉を覚える前の、まだ大人になり切らない頃だった気もするが、随分と聞き慣れた今となっては思い出すことすらままならない。
 でも、親でもきょうだいでもない誰かが、優しく促すようにこう囁く時、そこには大抵、一人で眠るには広すぎるベッドがあった。そして、半拍子遅れるようにしていわんとすることの全てを理解するたび、耳まで真っ赤になったりしたものである。
 大きなベッドを前にした時の、あの何ともいえない気恥ずかしさ。人並みに同棲や結婚を経て、二人で過ごす夜が当たり前となってなお、それは未だに消えることがないといったら世間様が嘲笑うだろうか。
 ただし、何もベッドを前に、ただ単に照れているわけではない。照れているように見えてその実、これから繰り広げられることへの隠微な期待に、いくつになっても何度でも、密かに胸膨らませずにはいられないだけのことなのだ。年齢や立場を慮って現役引退を決め込んでも、気づけばまた恋の迷路へ、快楽の迷宮へと、おずおずと手を・・・