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IS亡き後の「テロ情勢」

「イスラム聖戦主義」の拡散が加速

2017年4月号

 過激派組織「イスラム国(IS)」最大の拠点、イラク北部のモスルをめぐる攻防が政府軍側優位に進んでいる。またもうひとつの拠点、ラッカ(シリア北部)の陥落も視野に入ってきた今、中東の域内政治の関心は、もはや「IS後」に移っている。
 二月下旬、サウジアラビアのジュベイル外相がイラクを訪問しアバディ首相と会談した。アラブの隣国への外相レベルの短時間の訪問にどれほどの重要性があろうか、と思われるかもしれないが、トランプ米大統領がオバマ政権の路線を反転させてイランに厳しい政策を打ち出したことでサウジの外交が積極的になったとして、中東政治のウオッチャーたちはこの日を境に「IS後」のイラクを熱心に語るようになった。
 IS後のイラク西部を治める権力は何か? 彼らの大方の意見の一致するところは次のとおりだ。
 そもそもISが台頭した背景には、イラク西部の人口のほとんどを占めるスンニ派住民に対するシーア派主導中央政府の著しい差別政策、党派政治があったが、その構造は全く変化していない。モスル包囲作戦を主導したシーア派主体の政府軍と、イラン人将校の指導を受けるシーア派民兵組織・・・