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シリア北部は誰のものに

IS敗走後の一層難儀な「領土問題」

2017年5月号

 イラクでは「イスラム国(IS)」最大の拠点であるモスルの完全解放が目前に迫る中、ISとの戦いの焦点はIS自らが首都と位置付けているシリア北部の都市ラッカの攻防に移っている。この二つの拠点が陥落すれば、ISは事実上崩壊する。見るべき「領域」を失い、敗走を余儀なくされた戦闘員たちは、補給路を断たれ、砂漠をさまようだけのテロリスト集団に還るであろう。
 ところが、待たれるラッカへの総攻撃がなかなか始まらない(本稿執筆時点)。同市周辺では一年ほど前からISを追討する各勢力が戦いを優位に進めているのに、である。中でも主要な役割を果たしているのは、米国の支援を受け、クルド人がその主体を担っている「シリア民主軍(SDF)」だ。四月現在、SDFの戦闘部隊は同市を三方面から包囲している。
 ラッカはモスルに比べると人口二十万人に満たない小さな地方都市で、有志連合(米軍)の空からの支援も期待できる。SDFがこれまでに示した勇敢な地上戦闘能力を考慮すれば、攻略にはそれほどの時間を要さないとみられている。
 にもかかわらず、なぜ攻撃が始まらないのか。最大の理由は、米国がSDFに・・・