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連載

美の艶話 18

恋情に似たるもの
佐伯順子

2017年6月号


「十六」という名称が、文字通りういういしい若者を想起させる。平敦盛がわずか十六で、源氏の熊谷次郎直実に討たれたことに由来する能面。能『敦盛』ではこの面をかけたシテ(主人公)が、出家した熊谷直実あらため蓮生法師のもとに亡霊として姿を現し、在りし日の平家の宴や、自らの討ち死にの模様を回想する。
 能作者・世阿弥が、本説(典拠となる物語)に忠実に作劇するよう説いたように、能面にも刻まれた『平家物語』の「敦盛最期」の悲劇は、日本人の心に深く刻まれ、明治の唱歌『青葉の笛』(明治三十九年、大和田建樹作詞・田村虎蔵作曲)にもうたわれる。面の表情は、武者の面であるにもかかわらず、勇ましさよりも繊細さを醸し出し、眉毛が下がり、心なしかうつむきがちに見えるもの思わしげな細い瞳が、夭折の運命を暗示するかのようだ。
 同じ「十六」と名付けられる面には、眉毛をいからせ、戦士らしい勇ましさを漂わせる作例もあるのだが、敦盛の顔としてはやはり、哀愁を帯びた下がり眉の表情がぴったりであり、見つめていると、『青葉の笛』のもの哀しいメロディも響いてくるかのようだ。
 現代人がみても・・・