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連載

美食文学逍遥7

世界無比の「東京料理」
福田育弘

2017年7月号

 伝統的な日本料理というと、どうしても関西が本場、となりがちだ。現在でも東京には関西系の料理屋が多く、たとえ料理人の出身地が東でも、京都の老舗で修業したという事例は少なくない。
 関西系の日本料理店の進出は大正十二(一九二三)年の関東大震災で東京が壊滅的打撃を受けたあとから始まっているから、すでに百年に近い「伝統」がある。
 そもそも歴史をたどれば、平安時代以来、都として開けた京都や、その外港として商活動が盛んになった大坂に、まず洗練された飲食文化が成立したのに対して、江戸が日本の中心地となるのは、徳川幕府が開かれた十七世紀以降のことにすぎない。さらに江戸独自の文化が隆盛するのは、十九世紀前半の文化・文政期で、この時期になってようやく握り鮨や天麩羅といった江戸前の料理文化が花開く。
 その後、江戸は明治維新で東の都、東京となって名実ともに日本の首都となるが、飲食文化は関西を中心とする西の地域が優位を保つ。すべてのものの東京への一極集中に異を唱え、関西の飲食文化がバランスを取るという構図だ。
 東京の下町出身で、明治・大正・昭和を生き、天麩羅や握り・・・