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連載

美の艶話20

芸能と色気の「極上空間」
佐伯 順子

2017年8月号

江戸の芝居小屋の客席には、女性、男性いりまじり、ともに芝居を楽しんでいた様子がうかがえる。ところが、現代の歌舞伎座は、女性客でうめつくされている。ビジネスマンにとって、平日昼の部の劇場に足を運ぶのが難しいのはわかるが、残業に追われる多くの現代の男性は、おちおち芝居をみて遊ぶ暇もなくなってしまった。
 ところが、近世以前の日本では、芸能をみてうかれていたのは、むしろ男性であった。大坂の木津川河口の港町として栄えた川口の活況を描く﹃川口遊里図屏風﹄(近世初期)には、遊女たちの音曲や踊りを楽しむ男たちの姿が生き生きと描かれている。三味線の音に耳を傾けたり、盃を手に踊りを眺めたりする男たちの表情は皆にこやかで、子供のように天真爛漫。

 遊びをせんとや生まれけむ 
 戯れせんとや生まれけむ

 という中世歌謡『梁塵秘抄』の一節も思いおこされる。
 歌舞伎と遊里は、江戸期には二大「悪所」と呼ばれていたが、「悪所とは魅力的な場所」(狩野博幸『近世風俗画』)とも言われるように、江戸の人々にとって、芝居も遊里も、遊びにうつつをぬかし・・・