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社会・文化

死者万単位「東京メガ豪雨」に備えよ

関根正人(早稲田大学理工学術院教授)

2017年8月号公開

 ―「過去に例のない豪雨」が各地で続いています。

 関根 気象が極端化し、全国各地で記録的な豪雨が発生している。東京では幸い大被害を出す雨がなかっただけで、首都周辺で東京オリンピックが開催される期間に何も起こらないと過信する根拠はない。季節は雨期にあたる。
 東京は緻密に組み上げられた人工都市で、想定内の災害に対処はできる。だが近年の豪雨が大きな被害を生んでいることを考えると、専門家としては大いに心配だ。万一、たとえば荒川の堤防が決壊するといった事態になると、被害は桁違いに甚大なものとなる。

 ―首都水没が起きるのですか?

 関根 二〇〇〇年九月の「東海豪雨」は、一日当たりの雨量が過去百年以上にわたる最大値よりも七〇%以上大きかった。近年は海水温が高く、湿った空気がより多く供給される。巨大台風が首都を襲う可能性もある。
 東京で起きる恐れのある最大の被害は、荒川堤防の決壊をきっかけに生じる大規模浸水だ。その場合、墨田、江東、江戸川各区でかなりの数の住民が危険にさらされる。また、北区赤羽のあたりで決壊すれば、浸水は北区~荒川区~台東区と広がり、首都機能に大きな影響が出る。規模によっては銀座・日比谷にまで到達し、地下街・地下鉄が水没する。

 ―被害はどのくらいですか?

 関根 大都市と地方とでは、災害の規模や質が全く違う。昨年と今年の豪雨災害は、一級河川の支川や、中小河川の流域で起こった。山原の崩壊や河岸浸食、流木被害を伴った。
 東京の発生浸水は、地方の災害より予測可能だが、被害はより複雑になる。北から水が迫ってくる、足元の下水管から水が逆流する、さらに南側の河川から水があふれでる、といった具合だ。被害に遭う人の数は、地方での被害に比べれば二~三桁上、「万」の単位になる恐れがある。

 ―どうしたら防げるのですか?

 関根 対策には堤防などハードウェアの整備と、避難などのソフトウェア上のものとがある。豪雨災害の被害をなくすことは難しいと覚悟すべきだ。
 ハード面は、整備に数十~百年を要する。海抜ゼロメートル以下の低平地の場合は、「スーパー堤防」を拠点的に
整備し、活用することは一考に値する。
 ソフト面で重要なのは、高精度の「浸水リスク」情報だ。私は今、三十分~一時間先の状況が分かる「リアルタイム浸水予測」を作成している。下水道・河川など水の情報と、道路や建物などインフラの位置と機能のデータをすべて入力し、浸水の状況や見通し、それに住民がどう対処するかについて、精度の高い情報を提供する。
 住民が避難先で危険にさらされてはならない。将来見直しを必要としないほど信頼性が高いこと、住民が活用できる分かりやすさを備えることの二点が最優先だ。建物から出ることなく、上階に止まる垂直避難という方法もある。既存の「浸水想定区域図(ハザードマップ)」は情報が古いかもしれない。

 ―具体的には何ができますか?

 関根 五輪開催前に十分な準備をし、他の都市にない最新システムで訪問客の安全を確保することが、我々にできる「おもてなし」だ。私たちは今春、東京都二十三区に関してきわめて精緻な予測システムを完成した。政府と私たちは、精密な予知を、実践的に使えることを目指している。 
〈聞き手 伊熊幹雄〉

1959年、埼玉県生まれ。早稲田大学で工学博士号取得。2000年、同大学教授。国土交通省社会資本整備審議会専門委員、国土審議会専門委員、日本気象協会参与。大都市の浸水予測・豪雨災害対策、河道の変動メカニズムの解明などの研究が専門。


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