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政治

《罪深きはこの官僚》入江良郎(前・文化庁芸術文化調査官)

芸術祭賞選考を歪めた「勘違い男」

2017年10月号

 一部で報じられた文化庁職員による安倍政権への「忖度疑惑」の実態は、増長した役人の愚行に過ぎなかった。背景には、文化行政の癌である専門調査官制度がある。
 問題になったのは昨年の文化庁芸術祭賞の審査過程だった。優秀作品を選考する審査委員が候補作であるNHKのドキュメンタリーについて議論している際、文化庁芸術文化課の職員が「国を批判するような番組を選ぶのはいかがなものか」という趣旨の発言をしたという。件のドキュメンタリーはカンボジアにPKO部隊が派遣されていた一九九三年、現地で日本人の文民警察官が殺害された事件を検証したものだ。当時は、南スーダンに派遣されているPKO部隊に安全保障関連法に基づく新任務が付与された時期。職員の発言はPKOへの批判を封じ込めようとしたとも取れる。これを東京新聞が九月九日付朝刊で「政権への忖度か」という文脈で報じた。
 この問題発言をした職員は当時、芸術文化調査官を務めていた入江良郎だ。文部科学省担当記者によると「入江は、あくまで『政治的意図が顕著ではないこと』という審査基準について念押ししたかった」という。そしてむしろ、主眼は審査委員に留・・・