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連載

をんな千一夜第8夜

下田歌子 早すぎた女子教育の先覚者
石井 妙子

2017年11月号

 今回の衆議院選の騒ぎを見て、日本史上、もっとも権力の中枢に近づいた女性は誰であったろうかと考えさせられた。
 北条政子、日野富子、淀君、春日局といったところが思い浮かぶが、こと近代に限っていえば、このひとを措いて他にないだろう。
 伊藤博文や井上馨をして「男であれば大臣にしたかった」と評された下田歌子。抜きんでた教養と才覚で政府高官から一目置かれ、明治天皇や皇后からの信任も厚く、宮中のみならず教育行政全般に深く関わり、国づくりに携わった人物。その一方で、「色香を利用してのし上がった妖婦」との誹謗中傷に晒され、要職を追われた女性でもある。
 生まれたのは安政元年。美濃の岩村藩という小藩の下級武士を親に持ち、幼名は鉐。祖父と父が尊王思想を咎められ幽閉、謹慎を申しつけられるなか、四書五経、漢文、和歌を家庭内で学び育った。国内外の政治状況も父から教えられていたのだろう。六歳で「桜田門外の変」を知ると、こんな句を詠んだという。
 桜田に 思い残りて 今日の雪
 政治への関心は、この頃から芽生えていたのだろう。やがて明治の世となり、祖父、父に続い・・・