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社会・文化

がん「遺伝子改変治療」は福音か?

薬価「五千万円超」がまた物議に

2017年11月号

 不治の病を患った人の細胞に特定の遺伝子を導入することで病気を治す遺伝子改変治療―。それは、人類が追い求めてきた夢を具現化する生命科学技術の賜物だ。米国では承認が下り、普及が見込まれている。日本でもそう遠くない時期に一般的な治療として、その恩恵に浴する患者が増えていくかもしれない。こう記すと、遺伝子改変治療は福音をもたらすと思われるだろう。ところが、光はまばゆく輝くほど、暗い影がつきまとうのは世の習い。国の医療費は今、四十兆円を超え、薬剤費はその二割を占める。高額な先進医療が苦境の国家財政をさらに圧迫して、国民皆保険制度を揺るがす事態にも陥りかねない。福音の裏側に透けて見えるのは、医学の急速な発展が国家を潰す悪夢である。
 米国食品医薬品局(FDA)は八月末、小児白血病に対し「キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR―T)」を利用した新しい免疫療法を承認した。それは、ノバルティスが開発した「CTL019(商品名キムリア)」。患者のT細胞を体外に取り出し、白血病細胞が有するタンパク質と結合する抗体を発現させる遺伝子を導入。この細胞を点滴して、白血病細胞を攻撃するメカニズムだ。
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