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北朝鮮軍「板門店代表部」の実相

前線精鋭兵士に何が起きたのか

2017年12月号

 朝鮮半島、南北軍事境界線上にある板門店の共同警備区域(JSA)。十一月十三日午後、北朝鮮軍兵士が韓国へ亡命を図り、同僚兵士から四十数発の銃撃を受け五発が貫通する事件が発生した。
 東西約八百メートル、南北約四百メートルにわたるJSAに勤務する北朝鮮軍板門店代表部の軍人たち。韓国軍兵士らと対峙する彼らについては、板門店を訪れる世界の要人をにらみつける姿が知られている程度で、その素顔はベールにつつまれている。
 かつて板門店代表部に勤務した兵士によると、北朝鮮軍でも軍事境界線を挟んで南北四キロに広がる非武装地帯(DMZ)での前線勤務はエリート揃いだが、中でも同代表部は特別の存在だという。軍団ではなく北朝鮮軍総政治局直属部隊とされる。韓国政府元高官は「板門店は南北が直接顔を合わせて火花を散らす場所。思想が最も重要であり、総政治局が直轄しているのだ」と語る。
 要員は八百人。上将(北朝鮮軍特有の階級で大将と中将の中間に位置する)か、中将クラスが務める代表の下に、参謀長や政治部長、保衛部長ら幹部将校が居並ぶ。一九九〇年代からは李賛福上将が代表を務め、リチャードソン・・・