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連載

日本の科学アラカルト90

人体のような治癒機能を持つ「自己修復性材料」の可能性

2018年2月号

「再生医療」では、傷ついたり、機能を失ったりした人体のパーツを再生して、元の機能を回復させる。自動車などの工業製品の部品交換のように、臓器などを交換できないかという研究・実験が日本中、世界中で日夜続けられている。
 一方で、人体や生物は、工業製品にはない「自己修復機能」を持ち合わせている。わかりやすいのは、切り傷や骨折だ。ある程度の損傷であれば、皮膚や筋肉、骨といったパーツを交換せずとも、自然に修復されてほぼ完全に元通りに治癒する。こうした機能を持った工業材料を作れないかという要望が産業界から根強くある。分野は多岐にわたり、金属や高分子化合物、コンクリートなどについて、人的な労力を極力排除して損傷を回復できる「自己修復性材料」が注目されているのだ。
 実用化に向けて近づいているのは、細かい傷や凹みなどを修復する塗料やコーティング材などの分野だ。人体で言えば擦り傷や小さい切り傷レベルの修復だろうか。
 大阪大学大学院理学研究科の原田明特任教授らの研究グループは二〇一六年十一月、これまでとは根本的に原理が異なる自己修復性材料を開発したと発表した。従来、表面材な・・・