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連載

皇室の風 115

継承儀礼の過剰感Ⅲ
岩井克己

2018年3月号

 手違いは、天皇が中核神事「神饌親供」を終え、退出した直後に起きた。
 平成二年の大嘗祭。采女たちが供え物などを次々に撤下し、最後に敷き物の「神食薦」を撤下しようとした時だ。
「かしわの葉の食器や神饌を食薦に巻き込んで両端を紐(木綿)で縛って撤下する手はずでした。しかし担当の内舎人(掌典職員か)が紐で縛るのを忘れてしまったのです」(当時の采女役)
 丸めた食薦がほどけ神饌をぶちまけては大変だと采女らは必死で抱えて撤下するはめになったという。
 大嘗宮の正殿である悠紀殿、主基殿で天皇が皇祖神に食物を供えて自らも食する神饌親供を手伝う采女役は十人。白衣、紅の切袴、青摺りの千早という采女装束姿で女官、元女官、女性御用掛など年配の女性たちが務めた。
 筆頭格の陪膳采女が刀子筥、それに次ぐ後取采女が巾子筥を持ち、以下八人の采女がそれぞれ神への供え物を並べる神食薦、天皇の直会の食べ物を並べる食薦、箸筥、枚手筥、御飯筥、鮮物筥、干物筥、菓子筥を持って殿内に入る。掌典職員が蚫汁漬、海藻汁漬や八足机などを運び込む。天皇が竹の箸で盛り付ける食べ物を陪膳采女・・・