三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

本に遇う 連載220

政治家野中広務の原点
河谷史夫

2018年4月号

 ことし一月二十六日に九十二歳を一期として世を去った野中広務を悼む歌を、「朝日歌壇」(二月十九日付)で読んだ。

被差別者弱者に熱き心寄せ
いくさあらすなと野中広務逝く
(柏崎市)阿部松夫

春待たず平和求めて遠き空
筋金入りの護憲派一人
(静岡市)安藤勝志

 選者永田和宏の寸評に「私にはわからない政治家だったが、今になって惜しまれる」とあった。
「今になって」というところがみそである。野中は政界を引退してすでに十五年。何の影響力もない。永田のいう「今」が、ひたすら改憲にはやり、アメリカにべったり追従し、数を頼んで、自衛隊を世界のどこへでも「出兵」できるよう法整備をした安倍政治の時代を指していることは明らかである。戦争体験から二度と日本は戦争をしてはならないと言い続け、「護憲」の立場を持した野中が自民党に今健在であったら、との思いが永田にもあるのであろう。
 野中広務は一九二五年、京都府園部村の自作農の長男に生まれた。旧制府立園部中学校を卒業後、旧国鉄大阪鉄道管理局・・・