三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

経済

みずほが関与「北朝鮮不正送金」疑惑

主犯「愛媛銀行」闇に消えた五億円

2018年3月号公開

 北朝鮮との融和を演出した平昌五輪が行われていた時も、米国の北朝鮮制裁への緊張は緩んでいない。日本政府も米国と歩調を合わせるように、安倍晋三首相も米国との一枚岩を何度となく訴えている。そんな最中、日米同盟を根底から引っくり返すような事態が起きた。米国が神経を尖らせる北朝鮮の核開発に、日本から送金された不正資金が関わっているとしたら米国はどう反応するだろうか?不正送金の現場となったのは東京から遠くはなれた四国・愛媛。のどかな地方都市だ。
 愛媛無尽株式会社として発足した会社が、商号を愛媛銀行と改め普通銀行となったのは、一九八九(平成元)年のことだった。地元では“ひめぎん”と呼ばれる典型的な第二地銀である。
 愛媛銀行関係者によれば、この銀行の石井支店(松山市)に同銀行大阪支店の口座を持つ会社経営者が現れたのは、昨年の五月末のことだった。その会社経営者は一千万円の海外送金を依頼した。送金先は香港にある「恒生(ハンセン)銀行」。窓口で使途目的の欄に書かれたのは貸付だった。送金先には「K Company」と記載した。愛媛銀行は「恒生銀行」との取引がなかったため、コルレス契約(外国為替取引のための契約)をしているみずほ銀行に送金の委託をする。愛媛銀行では、この会社経営者が同行の大阪支店にすでに口座を持っていることから、海外送金について違和感を持つことはなかったようだ。

忽然と消えた巨額の送金者

 二回目の送金依頼はその数日後。この時の送金額は五千万円。さすがにこの時は、大阪支店に口座を持っている人間がなぜ愛媛の一支店から現金を送金するのかと疑われた。支店長はすぐさま、その会社経営者を別室で待たせ、本店審査部に判断を仰いだ。しかしながら、免許証などで本人確認が取れていること、身なりや態度に不審な点がないこと、なによりすでに大阪支店の口座を持っており、取引実績があることから「問題なし」と判断された。
 取引はこれで終わらなかった。 二回目の送金依頼をしたその会社経営者は、本誌が確認をしただけでもその後、三回にわたり五億円近い送金をしている。第二地銀の一支店である。億を超えるような送金など今までない。その会社経営者が姿を見せるだけで、支店内にはどことなく緊張した空気が漂ったという。
 五回にわたった送金は総額五億五千万円にものぼった。
 その銀行に口座も取引実績もない人間が多額の現金を持ち込んだ場合、アラート(警戒)を鳴らし、取引を中止する仕組みはどの銀行でも同じだ。ところが、この会社経営者のように口座も実績もあると“身体検査”は極端に甘くなる。ましてや第二地銀の一支店だ。受け付けるしかなかったのか。
 送金額が一億円を超えた時、支店長は本店審査部に再び問い合わせる。「大丈夫だろうか?」。二回目の照会に本店審査部もにわかに緊張する。大阪支店に問い合わせる一方、顧問弁護士にも相談する。大阪支店からの回答では、身元の問題はなかった。同支店では、その会社経営者を紹介した税理士に連絡を取り、その身元を確認。税理士からは数年の取引関係があり、金銭的にもしっかりしているとの証言を得ていた。顧問弁護士からの助言は次のようなものだった。貸付目的の送金を愛媛銀行がストップさせたことによって、貸付先の資金繰りを悪化させ、倒産でもさせてしまうと愛媛銀行が訴訟を起こされるリスクがある。だから「送金をやめさせてはいけない」と
いうものだった。
 愛媛銀行の送金代行を行ったみずほ銀行はどうだったのか。みずほ銀行にも当然のように不正送金に対する警戒システムはあったが、愛媛銀行から上がってきていた情報には何の問題もなかった。
 この送金は石井支店ではもちろん、愛媛銀行内でも知る人ぞ知る取引だった。地方の第二地銀にしては高額な送金だったからだ。それも時間が経つとともに銀行員の間でも口の端にのぼることはなくなっていた。ところが、年が明けるや、その取引は金融当局を震撼させる問題となる。きっかけは一本の電話だった。財務省四国財務局に奇妙な取材依頼の電話が入ったのは一月上旬のことだった。
「昨年六月に愛媛銀行の石井支店で行われた五億円を超える海外送金は不正なマネーロンダリングである」
 某通信社の記者を名乗る人物は、電話口でこう続けた。不正な海外送金を実行した人物の背後には詐欺師集団が控えている。明らかに資金洗浄だとし、名前と携帯電話の番号を伝えて電話を切った。
 驚いたのは四国財務局だった。すぐさま愛媛銀行に問い合わせると、電話の主が言った通りの取引が行われていた。同財務局は愛媛銀行にもう一度取引関係者への確認を指示する。大阪支店が、送金者を同行に紹介した税理士を伴って当該の会社を訪ねると、大阪市内にあった会社はもぬけの殻となっており、送金者の携帯は音信不通となっていた。つまり、税理士が愛媛銀行大阪支店に紹介した人物は忽然と消えていたのだ。異変を感じた四国財務局はすぐさま金融庁、財務省に状況を報告する。 折しも愛媛銀行には財務省が外国為替法による立入り検査に入ったばかりで、結果として「問題ない」と間抜けな報告をしたばかりだった。通信社記者を名乗った人物の携帯はつながらず、その在籍も確認できなかった。一体この人物は誰なのか?

送金先の役員に「国連制裁対象者」

 事態はミステリー小説のような展開を見せ始める。
 送金先である「K Company」を洗い出すと貿易会社であることが判明する。また、極めて重大な事実も明らかとなる。このK社が北朝鮮と国境を接する中国の北部戦区(旧瀋陽軍区)内、黒竜江省の商社と頻繁に取引をしていたこと。さらに、この商社が北朝鮮との密貿易をしていることも周知の事実だという。
 つまり、愛媛銀行の一支店から送金された五億円以上の資金がK社からこの商社を通じて北朝鮮に流れた可能性が極めて高いのだ。さらに深刻なのは、K社の代表を務めるKなる人物の存在である。K社の役員欄に英語で記載されている名前をハングルにすると、国連安全保障理事会の制裁委員会が指定した制裁者リストに指定されている人物だったからである。
 日本国内から北朝鮮への不正送金が行われていた可能性が極めて濃厚となったのである。よもや、この問題をもみ消すつもりではないだろうが、金融、財務当局は沈黙をし続けている。北朝鮮への制裁を強め続けている米国のみならず、国際協調にも反するこの事態に、安倍政権はどう対応するのだろうか? 事は銀行の凡ミスでは済まされる次元ではない。


掲載物の無断転載・複製を禁じます©選択出版

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます