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連載

をんな千一夜 第14話

「日支友好」を夢みた女教師
石井 妙子

2018年5月号

 北朝鮮と韓国の首脳会談が決まり、南北統一に向けて動き出すのかと気の早い声も上がっている。アジアの分断国家というと、この両国ばかりが取り上げられるが、実はモンゴルもまた、二つに割かれた民族、国家である。
 かつてロシア(ソ連)に支配された北部は、モンゴル国として独立したが、中国に組み込まれた南部の内蒙古(内モンゴル)は、「内モンゴル自治区」とされて今に至る。自治区とは名ばかりで大量の漢民族が移住し、いまやモンゴル人(蒙古人)のほうが少数となり漢化された。モンゴル人であってもモンゴル語を話せず、草原にパオで暮らす習俗も、内モンゴル自治区では、ほぼ潰えている。内モンゴルが完全に中国の一部とされてしまった今、もはやモンゴル国との統一は望めないであろう。
 まだ内モンゴルがモンゴル王族によって統治されていた約百十五年前、この地に派遣された日本女性の存在を知る人も今では、ほとんどいない。
 彼女の名は河原操子。日露戦争が勃発する直前の明治三十六(一九〇三)年、密命を帯びてモンゴル入りした時、二十八歳だった。
 操子は明治八年、松本藩の藩儒、河原忠のひとり娘・・・